読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

三題噺02 お茶・カニ・夢

「やぁ、よく来たね」
「今日はどうしたんですか先生」
「そう焦るな。まぁそこに座ってお茶でも飲みなよ」
「別に私は暇人じゃあないんですよ」
「そうかそうか、ところで君、昨晩夢は見たかい?」
「はい、見ましたけど」
「じゃあ夢の内容を詳細に覚えているか?」
「いえ、あまり覚えていないですけど。そんなものじゃないですか?先生は私と夢の話をするためにここに呼んだんですか?」
「夢の話をしに呼んだんだ。君はどうして夢が常に断片的な記憶でしかないのか疑問に思ったことは?」
「不思議ではありますね。先生にその謎がわかったとでも?」
「そうだ。私は実験を行った」
「はぁ」
「君は聞いたことがあるか?人は死んだら4g軽くなるという話を」
「あの魂が抜け出すとかなんとかいう都市伝説ですか?」
「あれは都市伝説ではないのだよ」
「……はぁ」
「私は1度実験を行った。寝る前の正確な体重を測り、測りに乗ったまま身体を固定し睡眠を取る。その際の体重に変化があるのかを装置で調べた」
「それで?まさか4g減っていたとか言うんですか」
「そのまさかだ。君は話が早くて助かる」
「先生が回りくどいんですよ」
「じゃあひとまずそのお茶を飲んではくれないか?」
「絶対に嫌です。先生が自らお茶を出すなんて嫌な予感がしていたんです。先に全ての説明をしてください。4g軽くなっているのが本当だとして、夢の記憶がなぜ曖昧なんですか」
「ふむ。そうだな。一言で言えば魂が抜け出ているからだ」
「睡眠時が仮死状態ってことですか?」
「そうじゃない。そうだな、魂という言い方は適正ではないかもしれない。本体と言えば良いだろうか。記憶だとか、感情だとか、人間の中にある形のないもの全てだ。」
「睡眠時には本体が身体から出ていると?」
「そうだ。そうすれば肉体はうまく休めるからな。そうして抜け出した本体はどうなると思う?」
「……それが夢ですか」
「そうだ。夢は確かに実在する。」
「いやいや、でも夢なんて現実じゃありえないことのオンパレードですよ。実在するなんてどうして言えるんです」
「じゃあ君はこの世界に、起きている間起こっていることだけが有り得るとでも?夢は実在するわけがないと?」
「そりゃそうですけど……まぁいいです続けてください」
「そもそも、その本体こそが人間の本質である。脳だとか肉体だとかはそれを縛り付けているものなのだよ」
「……なるほど?」
「世界は何も選択しない。本来であれば本体も何も選択しないのだ。しかしなぜだか生命が生まれた。そうしてその不自由な個体の中に本体が組み込まれた。そうすることで、我々人間が出来た」
「ファンタジー作品でも読んだんですか?」
「まぁ聞け。ここからが夢を覚えていない説明だ。何も選択しない本体はそのままであればそこに在るだけであった。しかし、人間のようなシステムに組み込まれ、目や脳を通して世界を見、理解するようになった」
「……」
「本来ならば本体は更に自由度の高い存在であった。しかし、肉体により世界を見ることを覚えた。そんな本体が身体の外に出て一時的に自由を取り戻すとどうなる?」
「与えられた記憶の中から好きなように世界を作り出したりすると?」
「流石だ。しかしもちろん本体が作り出す世界は我々の脳には理解不能なこともある。本体が帰ってきた際、無理に理解しようと脳が翻訳をするから夢は矛盾だらけであったり記憶が曖昧であったりするのだ。起きた時は覚えていてもすぐに忘れてしまうのも、脳が処理しきれない不要な矛盾を捨ててしまうからだ」
「面白いですけど、それ本体の存在必要ですか?4gも寝てる間の涎とかじゃないですか」
「本体の有無は全然違う。全然だ。いいか、これが本当であればそれはもうすごいことなんだ」
「どうやって証明を?」
「君に手伝ってもらおうかと」
「……このお茶は」
「頼むよ〜」
「何する気ですか」
「まず君を測りに固定して寝てもらう。体重が軽くなったのを記録した後に君を起こす。体重が戻っていれば成功だ」
「4gの確認が出来たらすごいですけど、本体云々はほとんど先生の妄想ですよね?」
「ちょっと寝て起きるだけだから!ね!お願い!」
「仕方ないですね……」
わはーありがと!」
「……飲みましたけど、これここで横になってればいいんですか?」
「うん。そこでいいよ。……よし、君意外と軽いね」
「……うるさいですね」
「お昼ご飯でも食べて待ってるからゆっくり君は寝ててよ」
「え、うわ、なんですかそれ」
「活きがいいでしょ〜君が来る直前に貰ったんだよこのカニ」
「あぁもう、……起きたら…それ、私にも……」
「お?寝たかな。体重は……まだ変化なしか」
「んー、このカニ美味しい。流石近藤教授だ」
「……お?お!おぉ!!減った!!丁度4g!!あぁ、本当だ!正しかったんだ!!」
「君!!起きてくれ!!実験は成功したかもしれない!!」
「……」
「起きたか!!体重は……も、戻っている……!成功だ!!成功した!!」
「……」
「どうした?君?……あ、あれ!?うわ!カニが急に活気を!!おい!やめろ!うわ!!」
「……」
「き、君!!見てくれ!!カニが……」
「……ど、どうしたんだ?なんで無言でジタバタしているんだ?」
「……は、はは、嘘だろ、変な冗談はよせよ」
「……おい……あ、う、嫌だ……嘘だ、嘘だぁぁぁ!!!!」
「……先生」
「……!!カニが!!カニが喋った!!!」
「どう見ても人間でしょう先生。冗談ですってば」
「へ?あ、あれ?カニは?」
「さっき食べたでしょう。もうとっくに死んでますよ」
「あ、あぁ、なんだ。びっくりした。カニと君の本体が入れ替わっちゃったのかと」
「変な研究に付き合わされたから意趣返しにと、ちょっとした冗談ですよ」
「だ、だよね、びっくりした〜驚かせないでくれよ」
「でもそういえば、実験は成功したんですよね?」
「おぉ!そうだ!そうなのだよ!本体の話はもっと調査が必要だが、4gの増減は確かに見られた。これはすごい発見だぞ!ありがとう本当に」
「感謝の証にそのカニ私にも食べさせてくださいよ」
「あぁ、こいつか。もう私はいらないから君に全部あげよう。あの動きはトラウマものだよ全く」
「死にきれてなかったんでしょうね」
「まぁいい、私はこのデータを持って教授の先生に自慢してくるよ」
「あ、先生。そういえば、本体が別の体に入ってしまった場合ってその体に適応したりするんですかね?」
「……えっ?」
「……冗談ですよ。全く、先生は本当に単純なんですね」
「大人をからかうんじゃないぞ」
「私こそ、もう変な実験には付き合いませんからね」